降車駅 第3章
第3章 『見習い』
第3章
『おおッ、直人くん。今日はいつにも増して真面目に仕事しているようではないか?冒険はいいのかね?冒険は?
仲間たちが、お待ちかねではないのかね?ん?』
『い、いやですねー。叔父さん、俺はいつも真面目に汗水垂らして働いていますよ。その息抜きにギルド…』
『ギルドとやらが、どうしたのかな?え?直人…直人!』
『仕事なら、もう終わってますよ。とっくに…』
『ほほぉ…今日はどうやら”本当”に真面目に働いていたようだな。いつもこうでありたいものだな』
『いいのかね?宿屋に泊まって仕事疲れの身体を回復させなくて?それともスタミナ回復薬が必要かな?』
『お?叔父さんも”シミッターレ・クエスト”やってんすか?もし、まだなら招待しますよ。俺、お友達紹介ボーナスが欲しいんすよ。なかなか、中ボスを倒せなくてさ。友達紹介で中ボス倒せるアイテムをゲットできるんすよ』
『誰がやるか!アホッ!』
『やれやれ、今日もようやく解放されるよ。拘束されること9時間。また、阿佐ヶ谷にでも寄って帰るかな』
『阿佐ヶ谷に行くなら、純喫茶浪漫に寄ってみろ。コーヒーがうまいぞ』
『純喫茶…浪漫。ですか?どこにあるんです?その店』
駅前のロータリーから商店街を歩いて行くと右手に見えてくる。すぐに分かるよ。老舗の店だから。』
『叔父さんはまた麻雀ですか?
真っ先に帰らなくてもいいんですか?
叔母さん夕飯作って待ってますよ。』
『今日は寄るところがある』
「叔父さん、また雀荘ですか?」
「仕事の付き合いだ」
「麻雀でしょ?」
「仕事の付き合いだ」
「絶対いま考えたでしょ、それ」
「麻雀は人脈作りだ」
会社から出ると駅に向かいながら、ベーコンの付け合わせを考える。
『叔父さんも人のゲームのこと言えないだろ?麻雀なんて賭け事じゃないかよ。それに比べると俺はマシか』
『いらっしゃいませぇーー』
俺はスーパーの入り口に入るとレジに目を向ける。
ー語尾伸ばすなって言われてたろ?おまえは…
直人はレジの相澤という女子高生のバイトを見るとレジの後ろの壁を背もたれにして、両手でスマホをパチパチと操作して目を画面に落としていた。
ーこっちすら見ないのか?
ひと通り食材を確保し、綻んだご満悦の顔でレジに向かう。
『お願いします…』
『はぁーい』
ー”はぁーい”じゃねえっつうの
直人は相澤というバイトの胸のネームプレートに目を向ける。
胸が大きくて、ネームプレートが少し上向きに傾いている。
『見習い…?』
直人は、思わず口を滑らせてしまった。
『なんすかぁー?あッ…お兄さんは。』
(やべ。俺のこと覚えてる?)
(いや待て。俺がこの子を知ってることがバレる)
「人違いでしょ?」
『……は?』
「いや、まだ何も言ってないんですけど……」
(…………)
やっちまった。
――俺は何をやってるんだ。
まだ「あッ、お兄さんは」しか言われてないだろ。
『見切り発車、言葉の綾、会話のシンコペーション。これを言葉の先走りともいう…なんちゃって』
『あのぉ…さっきから一人で何を言ってるんですか?』
『なんかしんないけど、めっちゃオモロい人』
『そのキャラ作ってます?天然なら、なおオモロいんですけど…』
相澤は、視線をレジに向け直すと商品をバーコードを通していく。
『777円です。てかさ、会計までオモロいんだけど?』
ーほっとけ!
『あのさ…この辺りに”純喫茶浪漫”という老舗のコーヒーショップあるかな?』
『ああ、浪漫ね。知ってるよ』
【歳上の男にタメ口かよ。おまえは…】
『このあと、バイトがハケるから案内してやろっか?』
『…へ?』
『ぷくくく…笑いが、止まらないわ。お兄さん見てると、てかさ、ちゃんと前向いて歩いてる?』
ーおまえも前向いて歩けよ…
『ちょっと外で待っててくれる?着替えてくるから』
澪は数分も経たないうちに出てきた。
『ふ〜ん、やっぱお前、高校生なんだな…』
『何?ヤラシい…そんな目で見ないでくれる?』
『ガキ相手にそんな目で見るかよ!』
澪は紺のカーディガンをブレザーの制服の上から羽織ると先に歩き出した。
『何してんの?こっちよ。さっき言ったこと気にしてんの?冗談なんだから、真に受けないの。』
ーおまえが変なこと言うからだろ?
直人は澪の後ろ姿を見ながら、呟いた。
『そういえばさ、おまえ何という名前なの?まだ聞いてもいないんだけど…』
『澪…相澤澪』
『澪…澪ちゃんか。神秘的な名前だね。』
『そ、そ…そぉ?なんか恥ずいじゃん。何?堕とそうとしてる?うちのこと。』
『んなわけあるかよ!』
『バカねぇ…冗談だっつうの。オモロいくせに冗談通じないのね』
『あー!ちょっと君たち…そこで止まりなさい!』
2人は誰かに呼び止められて、声のした方を見た。
そこには、刑事らしい服装の二人組が、澪と直人に手招きをして呼んでいる。
『何ですか?私たちこれから…ホテ…』
『あ!君は確か…桐谷直人さん?桐谷さんじゃないか?何してるの?こんなところで…』
『あ、まさか…女子高生連れて、まさか…あなたって人は!』
「はぁ!?」「はぁぁぁ!?」
――こいつ、今なんて言おうとした?
『いやですねーー刑事さん。
私たちこれから、そこの純喫茶浪漫で、この家庭教師のセンセーに勉強教わるんですよ。』と、言いながら澪は上目遣いでチラッと直人を見る。
直人:【誰が家庭教師だよ……】
刑事:「……家庭教師?」
澪:「そうそう。人生のね」
直人:【余計なこと言うな!】と澪に耳打ちする。
直人:【おまえ、ワザとだろ?】
澪:「さあねー」
『それより、あれから何か分かりましたか?例の男性のこと。』
『さぁ、でもそれっぽい人なら秋葉原から品川方面に向かってました。それくらいしか心あたりはありませんよ』
『それよりも刑事さんたち。ここって中野警察署の管轄外でしょ?何してんすか?こんなところで…』
ふたりは顔を見合わせると、『西荻窪に美味いラーメンを出すお店があるから、これから向かうところです。たまたま、目に入ったものですから。』
『…ラーメン?今作りましたでしょ?それ…』
『すみません、四月一日だけに…嘘です…』
澪と直人は顔を見合わせると…
『へ…?どっちが?嘘なの?』
『ねぇ…』
『…なんだよ?』
『今度ラーメン食べに西荻に連れてってよ』
澪は直人から視線を逸らしながらそう言った。
🎧 Chapter Soundtrack
『downtownⅡ』より