感情のない純情第4章
第四章 真夏の失踪
第4章 真夏の失踪
…で?将暉くんには、きちんと謝ったんでしょうね?真夏。
うん。きちんと頭を下げました。
真紘もごめんなさい…。私、のぼせ上がってました。
将暉に言えなくなっちゃった。
アンタ、のぼせてんじゃね〜よってね。
…で?で?それで?
な、何が?アンタの気持ちだよ。気持ち…!
そうよ、そうよ!と近寄ってきたのはクラスメイトの女子連合だ。我が支配下にいる女子どもだ。
ねぇ、ねぇ!真夏ぅ。あのときって、痛いの?やっぱ。
な、な、何聞いてんのよ!挿れられたときよ!
真夏は顔を真っ赤にしたまま、黙ってしまった。
あれ、この娘は生娘じゃあるまいし。いたしちゃって、まだ顔を赤るくらいの純情な心の持ち主なんてね。
将暉くんだよ。将暉くん。男らしいとこあんだね。
私たち、見直しちゃってさ。
真夏に気持ちがないなら、告っちゃおうかと。
は?好きにすればぁ〜。
だって、真夏は将暉くんのこと好きなんでしょ?
わ、私は、べ、べ別に…。
ふ〜ん。じゃあ私告っちゃおーっと。
真夏は、新聞を広げると記事を読み出した。
…真夏。
何よ!将暉は別に好きじゃないっての!
いや、違くて。新聞逆さまよ。
へ?見るとあべこべになっている。
もう少し…素直になりなよ。真夏。
べ、べつに、どうでもいいっての!
遠くから将暉の視線を感じる…。
視線が合ってしまい、思わず先に目を逸らす。
あれから、将暉の株は爆上がりだ。
噂では、すでに数名から告白された話しが真夏にも入ってきた。
いいのかなぁ〜。と真紘が真夏の席の前に座ってこっちを向いてる。両肘を机に乗せて顎で支えながら、視線はまっすぐに真夏に向けられる。
将暉くん、取られちゃうよ…。
いいんだってば。私たちは幼馴染なんだから。ただそれだけ!
前から一度聞きたかったんだけどさ…。
何?
真夏ってさ…何で将暉くんには、辛く当たるわけ?
素直じゃないよね?
私、知ってるんだからね?
何を?
真夏が将暉くんのこと…を。
だって、見ちゃったんだよね。アレ…。ま、いいけど。
ぷッ!真夏は吹き出した。
その慌てぶりも…おかしいよね?
何でそんなに卑屈なわけ?
いつもは堂々としてるのに、将暉くんに対しては、いつも卑屈な態度だよね?素直になれないっつうのかな?
ねぇ…好きなんでしょ?彼のこと。
好きで好きでたまらないって、顔に書いてあるわよ。
…いいのね?私、彼を奪っちゃうわよ。あなたから。
…い、いいわよ。別に。
本当にいいのね?
…うん。いいよ。
分かった…。
私…前に彼に告白したことあるわよ。
真夏は、真紘の顔を見ると剥き出しの闘争心で顔を引き攣らせた。そして、うつむき加減で顔を赤くし始めた。
ふふ…やっぱね。好きなのね。でしょ?
でもね…告ったのは本当よ。
前に私は言ったことがあるよね?
将暉くんが好きだって。
じゃあね…そうやっていつまでも捻くれてなさい。
将暉くぅ〜ん。ね、一緒に帰ろ!いいでしょう?
と、真紘は将暉に腕組みをして、真夏に手を振りながら教室を出る。
な、な、なんなの?あの女は!頭っきちゃう!
真夏は、急いで教室の窓から下の入り口付近を眺めてみると、二人が出てきた。真紘は手で口を押さえながら、笑って将暉の肩を叩いていた。
何が面白いんだが。将暉も将暉だわ。
いつも、ずっといつも一緒に帰ってたのに…。
私を送ってくれるんじゃないわけ?
守ってくれるんじゃないわけ?
何なの、あの女は!
すると真紘に聞こえたらしく、振り返ってこちらを見ながら、片方の指を目の下にして下げながら、あっかんべーと舌を出した。
ムカッ!人の男をあの女…。って、まだ付き合ってないんだっけか。私たち。
何で将暉は告白してくれないの?それなら…私だって…。
…ったく、男らしくないんだ。アイツ。
堂々と私を好きだって、言えばいいのに。
それとも、もう私を好きじゃないのかな。
真紘に乗り換えた?ああ、私ったら何を考えてんだろ…。
…私って、まさかね。
バカみたい。帰ろっと。
夕方の風は初夏を思わせるには、ほどよく気持ちはいいのに、心の中はそれに伴っていなかった。モヤモヤが湧き出してきてこの気持ちよさをかき消すように思える。
私は帰路に着きながらふと思う。
私は、怖いのかもしれない。人を好きになることが…。
また私が誰かを好きになることで、その人を失うときの怖さ。
次、またお父さんのようにお母さんのように、そして、最愛の拓也のように失ったときの苦い思いと想像を絶するような苦しみを味わいたくないのだ。そう思うだけで、真夏の胸はシクシクと痛みを感じ始めるのだ。気がついたら胸の辺りを押さえてる…なんて、いつものことだ。窮屈になり締め付けられて、圧迫されていくような感覚に襲われる。
堪らなく辛いんだ。あんな思いをするくらいなら、人を好きになるなんて、もう真っ平だ。
真紘には分からない辛さだ。こればかりは経験した人でないと分からない。皮膚の感覚と頭の感覚が消滅していくような感覚で痛みを感じない。怖いのよ。わたしは。真紘。
これからも私は人を好きになり、愛することもないだろう。
これを克服するなんて。時間が解決してくれるよ。真夏ちゃん。と言ってくれる人がいる。
忘れなきゃいけないよ。という人もいる。それはありがたい言葉だと受け止めている。私よりももっと辛い思いをしていても生きている人は大勢いるだろう。
しかし、私はまだ十八歳なんだ。まだ成人していない未成年で天涯孤独になってしまった。
私は一人だ。周りには私を支えてくれる人たちは大勢いる。しかし、その人たちにも、愛すべき人がいて、守るべき人がいる。私には幸せに感じてならない。私にはそんな人は存在しない。いくら、助けてくれる人がいようが、赤の他人だ。いざとなったら、自分の大切な人を助けるだろう。
私はどうしたらいい。そんなことを考えるだけで、眠れなくなる日もある。そんなことばかり考えて朝を迎える。
逃げてはいけないことは分かってる。だけど前に進めない。
周囲は静かに闇が空から降りてきた。そして空一面に散らばる街のライティングのような煌めきを見る気持ちの余裕すらなかった。
私の足先は自宅ではなく別の方角へ自然と向いていた。
逆光で私の後ろからの夕日は、終わりに迎えて寂しく、しかし黄金色に光り輝いている。
夕方見るそれはとても幻想的で、心が奪われていた。
静かに歩み寄りそっと腰を下ろす。
拓也…私はいったいどうしたいんだろう。この先、何を目標に生きていけばいいんだろう。そう思ったときに、真夏は拓也が送ってきたあの写真を開いた。
いつか真夏と一緒にこの景色を観たい…
そうだ…。そうか、私にはまだやらないといけない事があったんだ。夏までに…忘れてた。よしッ。
明日から長い長い、おまえらにとって思い出深い夏休みだ。
毎日毎日遊ばないようにたっぷりと課題を出しておくぞ!
教室ないからは、担任の木村にヤジが飛んでいた。
高校の夏は人生の中でももっとも思い出深いと言っても過言ではないだろう。
そんな木村の臭い言葉など聞いてる生徒は、ほとんどいなかった。学校が終わると真夏の姿は、すでにそこにはなかった。
将暉は、真紘のところへ行くと周囲を見渡しながら呟く。
ねぇ、真紘ちゃん、真夏、知らない?
真夏?真夏なら確か、さっき木村先生と話をしていたような。
先に帰ったんじゃないの?
そう…分かった。自宅に行ってみる。
一緒に行こうか?
いや、大丈夫。帰りながら寄ってみるだけだから。じゃあ。
あ、将暉くん!…そんな急いで探すようなことなの?もう!
一緒に帰りたかったのに…。
将暉は少し気になったことを思い出していた。
little cubを夏までに直してほしい…と真夏が言ったことだ。
夏までにlittle cubを直して何をしようってんだ?真夏は。
将暉は真夏にLINEしてみた。が、返信がなかった。
通話してみたが、繋がらない。いつもなら三コール以内に出るはずの真夏が出ないのだ。
真夏…スマホの電源オフにしてる。自宅まで来た将暉は、やはりバイクがすでに無くなっていることに気づく。
なんだよ!俺に相談もなく。真夏ちゃん。どこ行ったんだよ。
何をしようってんだよ。再びLINEを開いてみたら、真夏のトークは既読になっていた。将暉は急いで返信すると、ひとこと。
探さないでください…
以降、既読がつくことはなかった。真夏ちゃん、まさか、まさか死ぬわけじゃないよね?真夏…。いったいどこに。
あ、将暉くん!真夏は?心配になった真紘が真夏の自宅まで来たのだ。
もう家にはいない。真紘ちゃん、心当たりはない?
将暉くんが分からないのに、私が分かるわけないでしょ?
どんなに些細なことでもいいから!
…そんなこと言っても私だって、分からないわよ。
二人にはまったく手掛かりは分からない。二人は途方に暮れてしまった。仕方ないよ。帰ろうか?
そうだね。連絡待つしかないよ。
将暉は真紘を家まで送るために山道を歩いていたら、前方に小さな影を二つ見かけた。あれは…確か。
拓人!おーい拓人!
あ、将暉兄ちゃん。
将暉は一応、拓人に聞いてみた。真夏知らないかな?
真夏姉ちゃん?真夏姉ちゃんなら、どこか遠くに行くって言ってたよ。当分帰るつもりもないから、お稲荷様にだけ代わりにお詣りしてほしいって。お稲荷様?何だい?そのお稲荷様って。将暉兄ちゃんは知らないの?
真夏姉ちゃんは、毎日学校行くまえにお稲荷様に参拝してから学校に行くんだよ。
稲荷神?それってどこの?
なぁ〜んだ。将暉兄ちゃんはそんなことも知らずに真夏姉ちゃんとずっと一緒に育ってきたの?
いいだろー。アイツは内緒にすることばかりなんだ。
自分を決して見せないんだよ。
えー!だって、僕たちには何でも話してくれるのに?
え?そうなの?
本当さ。将暉兄ちゃん、真夏姉ちゃんに嫌われてんじゃないの?
…将暉は思った。子供には毒がある。無邪気で純粋なことは返って毒を吐いてることを気づかせない。子供には罪はない。分かってはいるけど、無性に腹は立つ。
ほっとけよ!案内してくれるか?そこに。
いいけど、なんかのくれる?
あのなぁ…損得勘定で行動すると悪い子に育つぞ。
まあ、いいけどさ。今度ジュースくらい奢ってよね?
ああ…ったく、近頃のガキときたら。
約束だからね!
ああ、何度も言うな!
こっちだよ。
拓人が案内してくれたのは山間の道の路肩にひっそりと佇む祠だった。
縦横三十センチほどの小さな祠だった。中には白狐様が二対大きさが多少違えど、紫の着物と赤い着物を纏っている。その前には小さな鳥居があり、しめ縄と紙垂で祠は守られている。
ずいぶんと小さな祠だな。これじゃあ気づかないよ。
お姉ちゃんは、毎週末には必ずきて掃除してるよ。
そうなのか?知らなかった。
…真夏ちゃんは、登校まえにこんなことやってたのか。
ここはね…始めはお兄ちゃんが掃除したり、お供え物を置いたりしてたんだよ。
…お兄ちゃん?
そう…俺たちのお兄ちゃんさ。
三年前に亡くなったんだ。事故でさ。
ひょっとして…その人って、拓也さんかい?
お兄ちゃんのこと知ってたの?
将暉は真夏から聞いてた話しを伝えた。
だから、代わりに今は真夏姉ちゃんが大切に守ってるんだ。
真夏姉ちゃんちには、仏壇もないからお父さんもお母さんもあの祠に祀ってあるような気がするって、言ってたよ。
あ、そういえば…真夏姉ちゃん。拓也兄ちゃんの後を追うって。そんなこと言ってた…あ、将暉兄ちゃん!
最後まで話しを聞かないんだよなぁ。将暉兄ちゃんは、昔からそうだよな。そそっかしいな。
真夏が拓也さんの後を追う?死ぬつもりじゃないか!
アイツ、どこ行ったんだよ。…ッたく。
俺って何やっても上手くいかないよなぁ。昔から。
その頃、真夏は静岡辺りを調子良く走っていたが。
プス…プスプス…。
あ、ついに止まっちゃった…ッたく。舌打ちをすると、バイクを路肩に停車してしゃがんでバイクを見ていたが。
将暉のやつ、きちんと直ってないじゃん。私じゃ分かんないよー。
実は、真夏は出て日本橋を起点にして、台東区のある場所を経由である場所に向かっていた。神奈川に入ったあたりからエンジンの音がおかしくなり始めていた。気になってはいたんだけど、ついに静岡まできて止まってしまった。
どうしよう…場所も探しながらだから、まったく皆目検討もつかないし。しょうがない。こうなったら。
将暉は真紘に連絡して事情を話していた。
…らしいんだよ。
拓也さんの後を追うって、死に場所を探しに行ったんじゃないの?ヤバいよ。どうしよう。先生に連絡しておこうか?
お願いできるかな?俺は心当たりを探してみるから、何か分かったら連絡ちょうだい。
うん!でも、運転きをつけるんだよ!
ああ、ドライブがてら行ってみっかな。
ぷるるるる…ぷるるるるッとスマホが鳴り出す。
将暉はちょうどバイクを取りに自宅のガレージに着いたところだった。
着信を見ると「真夏」と表示されてる。あッ、コイツ。
「もしもし?将暉?」
「真夏、おまえ何やってんだよ!今どこにいんだよ!」
「何を怒ってんの?意味わかんないし。…てかさ、バイク直ってないじゃんか!」
「は?今どこにいんの?」
「このやろー!バイク直しに来てよね?ここは、静岡あたりみたい」
「静岡?何してんの?静岡で」
「いいから早く来てよ!待ってる…」
「探さないでくださいとか、早く来いとか騒がしい女だな」
「あ!将暉ぃ!将暉!ちょっと!」
「何?」
「バイクの運転だけは気をつけてほしい、もう大切な人を失いたくないから…」
それにしても、将暉のやつ、何を勘違いしてんだろ?主語がなかったから勘違いされたか?それはお互いさまでしょ。アンタだってたまに主語抜けてんじゃん。ま、いいや。
程なくして将暉到着…。
真夏は将暉の顔を見た瞬間…身体の芯からジワリと滲み溢れるような感覚に襲われて、それが身体中を支配していく。
とても温かな気持ちは目頭に伝わって気づかないうちに流れ落ちていた。
…きちんと計画立てないからこうなるんだよ。何で始めから俺に相談しなかったんだよ。とキリキリに怒り浸透の将暉に対して、意外とあっきらかんとした態度の真夏。
なぜ?なぜあなたに相談する必要があるの?ねぇ?何故?
え?そ、それは…。
はは〜ん、おヌシさては私の逃避行を追い求めてきたな?
可憐な男子生徒よ…なぁ〜て、わたしが言うとでも思ったのか?
偉そうなこと抜かしといて、バイク止まって立ち往生だろ?
そ、それは…、あ、アンタがきちんと直さないからでしょうが。と真夏を少し身体を前のめりにしまま、両手を腰にあてて、捲し立てる。向かいには同じ体勢の将暉。
国道の路肩で渋滞で停車してる家族連れや、カップル、トラックの運ちゃんから注目の的になって、笑われてる。
姉ちゃん〜、彼氏にもっと優しくねぇ!とトラック運ちゃん。
彼女ぉ〜、そんな冷たい心の彼氏なんて捨てて、こっち乗りなよぉ!天国まで連れてってやるぜい?とスポーツカー男。
まだ死にたかないわ!それに、将暉は、そりゃあ〜優しくて心の中まで温かい彼氏なんだ!一緒にすんな!と真夏は中指を立てる。それを見ていた将暉はニヤニヤとニヤケて口元が緩みっぱなしだ。
な、な、何だよー!アンタそのスケベ面は?きしょ!きも!
いやいや、だってさぁ…恥ずかしいっつうかさ。
ハッキリと言いなよ、ハッキリとさ。
今、俺のことを彼氏って、口にしてたぞ、真夏ちゃん。
は?寝ぼけてんのか?言葉の誤だよ。口が滑っただけだよ…。
本当にそう?と横目でいやらしい視線を浴びせる将暉に、真夏は…。
あ、あんまこっち見つめんなよな。恥ずいから。と顔を真っ赤に染める。
ま、そんなことより、バイクをちょっとその先のコンビニまで移動しようよ。ここじゃあ、交通の邪魔だからさ。
だね…と真夏はlittleちゃんを移動し始めた。
何故だかlittle cubにlittleちゃんと命名したらしい。
将暉がバイクを見ている最中、真夏はコンビニで冷たいコーヒーを二本持ってきた。将暉ぃッ!はいよッ…とコーヒーを投げる。将暉は視線を合わさずに、片手だけ出してパシッ!と受け取った。ナイスキャッチだな。コイツ。
私の行動と投げ方のコツとか熟知してんな。…てか、バイク弄ってる姿…。何だよ、コイツ。いつもと違う。真剣な眼差しじゃんか。
あのさぁ…将暉。ん?何?今忙しい…。
ここに来るって、誰かに話してきたの?いや。急いできたからね。なんも準備すらしてない。道具一式だけ持ってきた。オマケにスマホまでガレージに置きっぱなしだよ。
直りそう?将暉…。
分かんねー。ちょっと黙っててくれる?忙しいから。
…ありがとう。こんな静岡まで飛ばしてきてくれてさ。
真夏はしっかりとしてそうで、案外抜けてるとこあるからね。
他の皆んなは、分かんねーだろうけど。いつものことさ。と将暉は作業の手を緩めずに語る。俺は君とずっと共にしてきたからね。知って知らずか…ってやつさ。
心の準備はいつも出来てる…
すると、将暉の作業してる手が突然「ピタッ」と止まってしまい固まる。
真夏が立ったままの体勢で後ろから抱きしめてきたからだ。
将暉の首元に両手を回して胸を背中に押しつけて将暉の身体の温もりを感じてるようだ。
ありがとう…ありがとう…いつも生意気でごめん。
頼りにしてる…。
この場が五分ばかり止まったように感じている将暉。
長い長い時間に感じられる。
恥ずいから…ちょっと真夏ちゃん。
…将暉…が…◯…き…△…よ。
は?何?よく聞こえないよ。ぶるるるー。と国道の車の音に真夏の声はかき消された。
蚊の鳴くような声だった。ハッキリ言って俺の耳までは届いてなかった。真夏がなんて呟いたのか。
あとにも先にも聞けないようなセリフだったのかもしれない。
まだ直んないわけ?ちょっと、アンタ。待たせすぎっつうの。
時間はたっぷりあんだろ?ゆっくりお茶でもしてなよ。
もう三本目なんですけど…。お手洗い借りに行きながら、またお茶を買って。またお手洗い借りに行って。タダで借りるの悪いじゃん?何だか悪循環なのよねぇ…。と片足で地面を叩く。
あ、まただ。ちょっとトイレ借りに行ってくる。
5分後、真夏がトイレから戻ってきたら将暉は放心状態だった。
どうした?将暉。
ダメだわ。こりゃ。店、戻んないと直せる状況じゃないよ。
どうする?真夏ちゃん。
いまさら引き下がれないわけよ。それに…。私さ、良いこと思いついちゃったわけよ。うふふ…と将暉に横目でイヤらしい視線を向ける。
な、何?ま、ま、ま、まさか。真夏。とんでもない事、考えてないか?おまえ。
おまえ言うなよ。真夏姉ちゃんと言いたまえ。
こんな状況でも君って、無邪気で明るいよね。そんなところ、俺は好きだな。
…え?真夏は思わぬセリフにキュンとときめく。
何…何…何…私ったら、このキュンキュンは何なの?
思わずキュン死しそうになった。
あのさ、仕方ない。こうなったら…
「一緒に逃避行ってやつだ」と二人は言葉を被せた。
emptiness
作詞 星野彩美
嗚呼、私の全てを抱きしめて
切ないこの心、抱きしめて
肌を掠める
思い出の傷の痕
夕暮れの風が
心まで沁みていく
胸に沁みる
消えない傷
振り返る度に
戻ることもできず
苦痛の昼
切ない夜
進むこともできず
心冷える
明日も見えず
空回りの足音が
雨の中
心まで乱される
嵐の中
些細なことで
胸の奥傷つく
空虚な気持ち
浮かんで沈む
漂い消える心
問いかけてる
今を生きることさえ
教えてほしい私
世間知らずで
生意気でわがまま
だけど短気で強がるだけ
甘えさせて
認めてほしい
だけど不安煽る
あなたの素顔
嗚呼私のすべてを抱きしめて
切ないこの心抱きしめて
萌ゆる春
夏の炎
憂う秋
冴える冬
季節変わる
止まる心
満たすことない
埋め尽くしてる
愛する気持ち
逃げてる私
頬伝う愛
胸掠めてる
振り返ることない
前だけ見つめてる
この胸が熱くなる
不安と揺れる心
好き好き
言い足りない
心熱くなるほど
あなたなしじゃ
生きられない私